こんにちは。行政書士の孔です。
2025年の薬機法改正について、「何が変わったのか分かりにくい」「うちの事業にどこまで影響するのか知りたい」と感じている事業者の方も多いのではないでしょうか。
今回の改正は、医薬品の品質・安全性の確保、供給不足への対応、創薬環境の整備、そして薬局・販売現場のルール見直しまで、かなり広い範囲に影響する改正です。厚生労働省は今回の改正について、「品質の確保された医薬品等を国民に迅速かつ適正に提供していくため」に必要な見直しを行ったと説明しています。
この記事では、行政書士の視点から、2025年薬機法改正の背景、主な変更点、そして事業者が実務上どのように備えるべきかを、できるだけわかりやすく整理して解説します。
改正が行われた背景
今回の改正の背景には、大きく4つの問題意識があります。
1つ目は、後発医薬品メーカー等を中心とした不正事案の発生です。2019年改正でガバナンス強化が図られた後も、不適切製造事案が続き、より実効性のある品質確保・法令遵守体制が必要とされました。2つ目は、医療用医薬品の供給不足です。3つ目は、ドラッグ・ラグ、ドラッグ・ロスを含む創薬環境の変化です。4つ目は、薬局機能や医薬品販売のあり方の見直しです。厚生労働省の制度部会のとりまとめでも、これらが今回の制度改正の中心課題として整理されています。
つまり、今回の改正は「不正を防ぐためだけの改正」ではなく、
「品質・安全性」「安定供給」「開発促進」「販売・提供体制」をまとめて再設計する改正と理解した方が実態に合っています。
まず押さえておきたい前提
「2025年改正」と言っても、すべての改正事項が一斉に始まるわけではありません。
改正法は2025年5月21日に公布されましたが、施行は段階的です。厚生労働省の施行情報では、2025年11月施行分、2026年5月1日施行分、さらに公布後2年以内・3年以内に施行される事項に分かれています。したがって、事業者としては「改正法が成立したかどうか」だけでなく、「自社に関係する条項がいつ施行されるのか」を個別に確認する必要があります。
特に実務では、「法改正の存在は知っていたが、施行時期の確認が遅れた」という形で対応が後手に回ることが少なくありません。
そのため、法改正の内容と施行スケジュールを切り分けて理解することが重要です。
主な改正ポイント
製造販売業者のガバナンス強化
まず大きいのが、製造販売業者に対するガバナンス強化です。
今回の改正では、医薬品品質保証責任者と医薬品安全管理責任者の設置が法定化されました。また、指定する医薬品の製造販売業者には、副作用に関する情報収集等の計画の作成・実施が義務付けられます。さらに、法令違反等があった場合には、薬事に関する業務に責任を有する役員の変更命令を可能とする制度も盛り込まれました。
ここで事業者が注意すべきなのは、「責任者を置けば足りる」という話ではないことです。
実際には、組織図、権限分掌、報告ルート、逸脱・品質情報・安全性情報のエスカレーション体制まで含めて、社内運用が実態として機能しているかが問われます。とくに中小規模の製造販売業者では、名目的な兼務体制のまま運用しているケースもあるため、今回の改正を機に見直しが必要です。
医療用医薬品の安定供給体制の強化
次に、供給不足問題への対応です。
改正法では、医療用医薬品について供給体制管理責任者の設置、出荷停止時の届出義務、供給不足時の増産等への必要な協力要請などが法定化されました。さらに、電子処方箋管理サービスのデータを活用して、需給状況のモニタリングを行う仕組みも位置付けられています。
この改正は、単に「不足したら報告する」というレベルではありません。
平時から、供給リスクの把握、原材料や製造委託先のリスク管理、代替製品の有無、出荷調整時の社内判断フローなどを整理しておく必要があります。製造販売業者や製造業者にとっては、BCPやサプライチェーン管理を薬機法対応の一部として捉え直す必要がある改正といえます。
承認制度・開発環境の見直し
今回の改正では、創薬環境の整備に関する見直しも入っています。
具体的には、条件付き承認制度の見直しにより、臨床的有効性が合理的に予測可能である場合等の承認を可能とする方向が示されました。また、医薬品の製造販売業者には、小児用医薬品開発計画の策定が努力義務化されています。
さらに、制度部会のとりまとめでは、リアルワールドデータの利活用や、医薬品・医療機器等の承認審査・再審査等におけるデータの活用についても整理が進められています。ただし、国会審議・附帯決議でも、リアルワールドデータは臨床試験を完全に代替するものではなく、その活用には慎重な検討が必要とされています。
このあたりは、研究開発型企業や承認申請を予定している事業者にとって特に重要です。
従来どおりの承認申請実務だけでなく、申請資料の作り方、市販後安全対策、開発計画の立て方まで含めて、制度の変化を前提に考える必要があります。
薬局機能の強化と販売ルールの見直し
今回の改正は、薬局・販売現場にも大きく影響します。
改正法の概要では、調剤業務の一部の外部委託を可能とする仕組み、濫用のおそれのある医薬品の販売方法の見直し、そして薬剤師等による遠隔管理の下で、薬剤師等が常駐しない店舗における一般用医薬品の販売を可能とする制度が盛り込まれています。
また、指定濫用防止医薬品については、年齢や数量に応じた販売方法、対面またはオンラインによる対応、情報提供の方法などについて省令・通知レベルで具体化が進められています。厚生労働省の説明では、若年者への大容量・複数個販売の制限や、一定の場合の対面またはオンライン販売の考え方が整理されています。
つまり、薬局や店舗販売業者にとっては、
「売れるかどうか」だけではなく、「どう売るか」「誰が関与するか」「どこまで確認し記録するか」が、今まで以上に重要になる改正です。特に多店舗展開をしている事業者は、現場運用のばらつきがそのままリスクになります。
事業者が今すぐ見直したい実務対応
では、事業者は何をすればよいのでしょうか。
まず製造販売業者は、責任者の配置だけでなく、品質保証・安全管理・法令遵守の実際の運用体制を見直す必要があります。社内規程、職務分掌、報告フロー、会議体、教育記録、逸脱対応、CAPA、委託先管理などを、現行法ではなく改正後の要求水準に照らして点検することが重要です。
次に、供給体制に関わる事業者は、出荷停止や供給調整が起きた場合の社内判断フロー、行政対応、取引先への連絡体制を整理しておくべきです。
とくに、どの段階で「出荷停止」と判断するのか、誰が届出判断をするのか、情報の一次集約先はどこか、といった実務設計は、改正後に非常に重要になります。
薬局・店舗販売業者については、指定濫用防止医薬品の販売手順、本人確認や購入理由確認の方法、情報提供の方法、オンライン対応の可否、記録保存の方法を、施行通知やQ&Aに合わせて整備する必要があります。厚生労働省は2026年5月1日施行事項に関する通知、指定濫用防止医薬品の販売通知、Q&A、手順書ガイドラインを公表しているため、現場任せにせず、社内共通ルールに落とし込むことが必要です。
また、今回の改正は医薬品分野に関する比重が特に大きいものの、医療機器や再生医療等製品を扱う事業者でも、「安全対策」「データ整備」「品質確保」「社内責任体制の見直し」という方向性自体は無関係ではありません。自社が薬機法上どの立場にあるのかを確認した上で、必要な対応範囲を整理することが大切です。
申請・運用に関する注意点
今回の改正では、法改正そのものだけでなく、その後に出る政令・省令・通知・Q&Aまで見ないと、実務がつかめません。
実際、厚生労働省は改正法の専用ページで、法律、整備政令、整備省令、告示、通知、Q&A類を段階的に公表しています。条文だけを見て「大体こうだろう」と判断すると、現場運用でずれるおそれがあります。
とくに注意したいのは、今回の改正が「許可を取るときの話」だけではなく、取得後の運用体制に強く踏み込んでいる点です。
そのため、許認可申請に強いだけでは足りず、実際の運用・記録・教育・委託管理・販売方法まで含めて継続的に点検できる体制づくりが必要です。
まとめ
2025年薬機法改正は、
「品質・安全性の確保」「安定供給」「創薬環境整備」「薬局・販売機能の見直し」という4つの柱で理解すると、全体像がつかみやすくなります。とくに事業者実務に直結するのは、製造販売業者の責任体制強化、供給体制管理、薬局・販売現場の運用見直しです。
また、改正事項は一斉施行ではなく、2025年11月施行分、2026年5月1日施行分、さらに今後施行される事項に分かれています。
そのため、今後の薬機法対応では、「改正内容の理解」と「自社に関係する施行時期の確認」をセットで進めることが重要です。
薬機法は、許認可を取って終わりの法律ではありません。
改正のたびに、組織体制、社内規程、販売方法、記録、委託管理まで見直しが必要になります。自社だけでの整理が難しい場合は、早い段階で専門家に相談し、どこまでが「今すぐ必要な対応」なのかを棚卸ししておくことをおすすめします。

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