こんにちは。行政書士の孔です。
再生医療や細胞加工の相談では、最初の段階で制度を混同してしまうケースがとても多く見られます。
典型的なのは、「再生医療を提供する医療機関の手続」と、「細胞を加工する施設の許可・届出」と、「製品として販売するための薬機法上の承認」を同じものとして理解してしまうことです。
ですが、日本の制度ではこの3つは別々に設計されています。ここを最初に切り分けないと、必要書類も、相談先も、準備すべき体制もずれてしまいます。
さらに、再生医療等の安全性の確保等に関する法律は、2025年5月31日から改正法が施行されており、現在は改正後の法令・通知・Q&Aを前提に確認する必要があります。古い解説だけで判断すると、実務上の手続や様式の理解がずれるおそれがあります。
まず分けて考えるべき3つの制度
再生医療・細胞加工の実務では、まず次の3つを分けて整理するのが基本です。
1つ目は、医療機関が再生医療等を患者に提供するための手続です。これは再生医療等安全性確保法に基づく再生医療等提供計画の提出が中心になります。
2つ目は、特定細胞加工物等を製造する施設側の手続です。こちらは、製造場所が医療機関内か、医療機関外か、国外かによって、届出・許可・認定に分かれます。
3つ目は、製品として流通させる「再生医療等製品」の制度で、これは薬機法上の製造販売承認などの枠組みです。
この切り分けはとても重要です。たとえば、クリニックが自由診療として再生医療を行う話と、企業が再生医療等製品を市場に出す話は、似て見えても法的なルートが違います。前者は主として再生医療等安全性確保法、後者は薬機法上の承認審査の問題です。
医療機関が再生医療を提供する場合に必要な手続
医療機関が再生医療等を行おうとするときは、まず再生医療等提供計画を作成し、認定再生医療等委員会または特定認定再生医療等委員会の意見を聴いたうえで、事前に提出する必要があります。厚生労働省の案内では、再生医療等技術は第一種・第二種・第三種に分類され、それぞれに応じた手続が定められています。第一種・第二種は特定認定再生医療等委員会、第三種は認定再生医療等委員会の審査が前提です。
なお、再生医療等提供計画は、単に1回出して終わりではありません。
変更が生じた場合には、内容によって事前変更届が必要なものと、変更後10日以内の軽微変更届で足りるものに分かれます。たとえば、再生医療等の提供方法の変更や、特定細胞加工物の製造・品質管理方法の変更、特定細胞加工物等製造事業者の変更などは、あらかじめ委員会意見を経て提出が必要な変更事項として例示されています。
また、提供計画を提出した後も、年1回の定期報告が必要です。地方厚生局のFAQでは、再生医療等提供計画を提出した日から起算して1年ごとに、期間満了後90日以内に報告が必要で、提供実績がない場合でも報告が必要だとされています。さらに、死亡や死亡につながるおそれのある症例など、重大な疾病等が発生した場合には、速やかな一報のうえで7日以内の報告が求められます。
細胞加工施設に必要な「届出・許可・認定」
再生医療で使う特定細胞加工物等を製造しようとする場合、施設ごとに事前手続が必要です。
厚生労働省の整理では、
- 国内の医療機関内で製造する場合は届出
- 国内の医療機関外で製造する場合は許可
- 国外で製造する場合は認定
となっています。つまり、「細胞加工施設だから全部同じ許認可」という構造ではありません。どこで、誰が、どの立場で加工するのかによって必要手続が変わります。
さらに、国内の医療機関外での許可、国外での認定については、PMDAによる調査が予定されています。逆に、医療機関内で自院加工する場合は、施設ごとの届出が中心になります。ここでも「医療機関が再生医療を提供する計画の提出」と、「細胞加工施設そのものの手続」は別レイヤーだと理解しておく必要があります。
細胞加工施設には、構造設備や運用面の要求もあります。
厚生労働省の概要ページでは、構造設備基準、施設管理者、品質リスクマネジメント、製造部門・品質部門、標準書、手順書、製造管理、品質管理、変更管理、逸脱管理、自己点検、教育訓練、文書記録管理などが整理されており、単に箱としての施設を用意すれば足りるわけではないことが分かります。
自院加工・外部委託・海外委託で何が変わるのか
再生医療の実務では、細胞加工を自院で行うのか、国内の外部加工施設に委託するのか、海外施設を使うのかで必要な整理が変わります。
自院で加工する場合は、医療機関としての再生医療等提供計画に加えて、医療機関内での特定細胞加工物等製造届が必要になります。厚労省の手続案内でも、「外部委託せず、自院において製造する場合は、別途、特定細胞加工物等の製造の届出が必要」と明記されています。
一方、外部委託する場合でも、医療機関側の責任が消えるわけではありません。
再生医療等提供計画の中で、どの細胞加工施設を使うか、どのような製造・品質管理の方法かが問題になり、加工委託先の変更があれば、提供計画の変更手続が必要になることがあります。したがって、「外に出したからクリニック側はノータッチ」という理解は危険です。
海外施設を利用する場合はさらに慎重さが必要です。
国外で特定細胞加工物等を製造する場合は、国内施設の許可ではなく認定の問題になります。海外のCPCがあるからそのまま日本で使える、という単純な話ではありません。日本法上の認定対象になるのか、どの主体がどの計画にひもづけて使うのかを個別に確認する必要があります。
「再生医療等製品」として売る場合は別制度
ここも非常に重要です。
企業が細胞加工物や遺伝子治療関連のものを製品として流通・販売したい場合、それは再生医療等安全性確保法の「医療機関による提供」だけでは完結しません。PMDAは、再生医療等製品を、人または動物の細胞に培養等の加工を施したもので身体の構造・機能の再建、修復、形成や疾病の治療・予防を目的とするもの、または遺伝子治療を目的として人の細胞に導入して使用するもの、と整理しており、その場合は薬機法上の製造販売承認申請等のルートに入ります。
つまり、同じ「細胞を使う」話でも、
- 医療機関が計画を出して患者に提供する再生医療
- 企業が承認を取って市場に出す再生医療等製品
は別制度です。
再生医療・細胞加工ビジネスで最初に設計を誤りやすいのは、まさにこの点です。
よくある誤解
1. 「委員会に通れば始められる」
違います。委員会審査は重要ですが、それだけでは足りません。提供計画の提出、必要に応じた細胞加工施設の届出・許可・認定、定期報告や疾病等報告まで含めて制度が回っています。
2. 「細胞加工は外注するからクリニック側の手続は軽い」
外注しても、医療機関側には再生医療等提供計画の作成・提出、委員会審査対応、提供状況報告などが残ります。外注は免責ではなく、むしろ委託先の管理をどう計画に落とし込むかが論点になります。
3. 「海外CPCがあるなら日本の手続は不要」
不要にはなりません。国外で製造する場合には認定の問題があり、日本でどの提供計画に基づいて使うのかも別途整理が必要です。
4. 「PRPなら全部この法律の対象」
一律には言えません。厚労省の概要では、適応症を含む承認又は認証を取得した医療機器で作製した細胞加工物を、承認・認証された使用方法等で用いる医療技術は、法の適用除外に入る場合があると整理されています。個別技術ごとの確認が必要です。
5. 「許可を取れば終わり」
終わりではありません。細胞加工事業者には重大事態報告や年1回の定期報告があり、再生医療等提供機関にも年1回の提供状況報告があります。実績ゼロでも報告が必要とされる点は見落とされやすいです。
事前に確認したいチェックリスト
再生医療・細胞加工の案件では、少なくとも次の順番で確認すると整理しやすいです。
- これは「医療機関による再生医療の提供」か、「再生医療等製品の事業化」か
まず再生医療等安全性確保法の話なのか、薬機法上の承認の話なのかを切り分ける。 - 再生医療等技術は第一種・第二種・第三種のどれに近いか
必要な委員会や手続の重さが変わる。最終的には個別判断が必要。 - 細胞加工はどこで行うか
自院内なのか、国内の外部施設なのか、国外施設なのかで、届出・許可・認定が分かれる。 - 委託先変更や製造方法変更が起きたとき、提供計画の変更が必要か
安全性に影響を与える変更は、事前届出が必要になることがある。 - 運用開始後の報告体制まで組めるか
提供機関の90日以内の年次報告、細胞加工事業者の60日以内の年次報告、疾病等・重大事態の報告フローまで含めて検討する。
こんな場合は先に専門家整理を入れた方がいい
次のような案件は、先に制度設計を整理した方が安全です。
- クリニックでPRP、幹細胞、免疫細胞療法などを始めたい
- 自院加工か外部委託かで迷っている
- 海外の細胞加工施設を使いたい
- いずれは製品化まで視野に入れている
- 医療法上の広告、薬機法上の表示、再生医療等安全性確保法上の手続が混ざっている
こうした案件は、入口の制度選択を間違えると、後で委員会審査・施設手続・契約・説明文書の全部をやり直すことになりやすいです。
まとめ
再生医療・細胞加工の許認可で大切なのは、「誰が患者に提供するのか」、「どこで細胞を加工するのか」、「それは医療行為として行うのか、製品として流通させるのか」を最初に分けることです。
日本では、
- 医療機関の再生医療等提供計画
- 細胞加工施設の届出・許可・認定
- 薬機法上の再生医療等製品の承認
が別制度として動いています。
ここを正しく切り分けることが、最初の実務対応そのものだといえるでしょう。

コメント